今月のおすすめCDについて
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クラシックとは限りませんし,CDではないかもしれません。。

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2001.T

冬にはシベリウス



 20世紀も末の1997年に没後40年を迎えたフィンランドの作曲家ジャン・シベリウスは,最近も盛んに演奏,レコーディングされる作曲家の一人です。
 シベリウスの音楽の尽きせぬ魅力が演奏家をコンサートや録音に駆り立てていることもあるのでしょうが,近年になって急速に力を付けてきた北欧の音楽家たちや,レコード会社の躍進も大きな力になっていると思われます。
 いままでレコーディングに恵まれずレコードでしかその能力を伺い知ることが出来なかった海外の演奏家にとってCD時代の規模の小さなレコード会社でも世界に向けて音楽を発信できるようになったのは音楽の中心地から遠く離れた日本と北欧を結ぶ上で大きな意味がありました。
 私の住んでいるこんな田舎にまでフィンランドの名門ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団がやってきて手抜きの無い真剣勝負の音楽を聴かせてくれるとは,CDの発売がなかった一昔前なら考えもつかなかったことでしょう。
 音楽は生で聴かないとなかなかその真価を知ることは出来ません。私は特にその傾向が強く,今では大好きになった曲や作曲家についても生演奏に接するまで「何処がよいのか一つも解らない。」という状態でした。そして生演奏や自身での演奏体験がきっかけで面白さや奥深さを知ってからは,その追体験や未聴の世界への好奇心が多くの同曲異演CDを購入するきっかけになりました。
私がこの曲を好きになるきっかけとなった演奏会は先にも述べた,オッコ・カム指揮のフィンランドの名門ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏会で,プログラムはフィンランディア,ヴァイオリン協奏曲,交響曲第2番という定番中の定番曲目でした。
 しかし,ヴァイオリン協奏曲だけが自分の中ではどうも今ひとつ理解しがたい曲目だったのです。真剣に聴いてきたわけではないCDの演奏からは,元々が幻想曲として作曲され始めたといういきさつもあってか,とらえ所のないもやもやした曲という印象しかなかったのです。
 しかし,初めて生演奏を聴いたとたんにその印象は一変しました。前プロのフィンランディアからなんとなく気がついてはいましたが,演奏が始まった瞬間の弦楽器の音にしびれました。今まで聴いてきたどのオーケストラとも違う独特のヘルシンキ・トーンとでも言うべき燻し銀のような弦の音色が一瞬で遠く離れたフィンランドの世界を作ったのです。
 ここをずっとご覧になってくださっていらっしゃる方はご存じかと思いますが,私は個性のある音楽,音を持った演奏が大好きです。そしてその個性がマッチして琴線に触れたものには本当に感動するのです。
 こんな極東の地の田舎まで演奏に訪れてくれた上に手抜きのない素晴らしい演奏を繰り広げてくれた彼らに感謝するとともに今後も応援していきたい団体として非常に心に残りました。 今回ご紹介するのは,素晴らしい演奏会を体験して好きになることができた曲と,その初稿演奏を納めたCDです。

シベリウス ヴァイオリン協奏曲 初稿と決定稿 Vn:カヴァコス ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団

ジャン・シベリウス ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
 1. 初 稿 1903/04
 2. 最終稿 1905
 レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)
 オスモ・ヴァンスカ  (指揮)
 ラハティ交響楽団   (演奏)
 録音:1991年 1月 7,10日(初 稿)
 1990年11月19,21日(最終稿)
 BIS-CD-500


 この録音しているBISレーベルは,創始者のロベルト・フォン・バールが演奏者との交渉,録音機材,録音場所,録音,宣伝,販売などすべてを取り仕切っている小さなレーベルですが,トロンボーン・ファンの方ならご存じのようにクリスティアン・リンドベルイや,トリトン・トロンボーン四重奏団などの録音もしているのでご存じの方も多いことでしょう。一時期は「絶対に廃盤を出さない」と宣言するなど独特の録音とその内容に是対の自信を持っています。
制作方針は,はじめ小レーベルらしく室内楽を中心にして開始されましたが,大編成のものへと発展してきています。そして,スウェーデンのレーベルらしく有名なシベリウスやグリーグは勿論のこと,今まであまり知られていなかった北欧の作曲家に焦点を当てて紹介することを使命と考えているようです。シベリウス,グリーグでは全作品の録音をしながら,新たな資料を探し出し世界初録音を敢行するなど,ただの全集に終わらせないという心意気と,アルヴェーン,アホ,クラミといったまだまだメジャーとはいえない北欧の作曲家の録音にも積極的で毎回の発売が気になるレーベルの一つとして音楽ファンの興味と関心を集めています。
このCDでは2度と演奏されることのなかったはずの1903年の初稿(シベリウスは現在の形に完成してからは初稿の演奏を禁止していまいましたが,BISの社長バールが粘り強くシベリウスの遺族と交渉した結果,許可を得たために可能となりました)の録音が1905年の決定稿(通常演奏されているものです)とともに録音されています。演奏はヴァイオリンの独奏に若き精鋭カヴァコス,伴奏は近年シベリウスの新たな演奏形態を模索して専門家や愛好家から高く評価されているオスモ・ヴァンスカ指揮のラハティ交響楽団です。
 BIS独特の豊かなプレゼンスとクリアーな音像を併せ持ったダイナミックレンジの大きな録音がまたシベリウスによく似合います。
 作曲家の曲が完成するまでの軌跡を見ることが出来る貴重な資料としてだけでなく,模範的な名演奏だと思います。


シベリウス ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47 Vn:ミリアム・フリード オッコ・カム指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団

ジャン・シベリウス ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
 ミリアム・フリード(ヴァイオリン)
 オッコ・カム    (指揮)
 ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団 (演奏)
 録音:1987年10月9〜11日
 WPCS-4749

  このCDはオッコ・カム指揮のヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団演奏会に行ったときに売られていたもので独奏者は違いますがしっかりと独特な弦の音色がとらえられており,今でもあのときの感動が反芻できるものです。

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