今月のおすすめCDについて
毎月購入するものの中から今月の一押しを紹介!クラシックとは限りませんし,CDではないかもしれません。。

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2003. II

 白鳥と消費税
 
SWAN105


 憧れは,時を越える。
 (スカイラインのCMより。)

 オーディオ関連の雑誌に一貫したポリシーを持ってオーディオ機器を評論する男がいた。
 曰く,オーディオ機器には振動が大敵。重量は重く,叩いても鳴かないものがいい。
 曰く,スピーカーもエンクロージャーは大音量でもびくともせず,振動板だけが軽々と動くこと。
 曰く,安くて質のいい物を使う。

 面白かった。説得力があった。どんな音がするのか想像が膨らんだ。
 その男は今は無きFM fanという雑誌にハード批評の連載を持っていた。面白くて毎週発売されると必ずそのページから読んでいたが,あるときその時点ですでに一流のジャーナリストとなっていた若き日の立花隆が,その雑誌の評論家の自宅を訪ねるというものが掲載された。
 題名は「立花隆のオーディオ評論化探検」。

 第1回はその男だった。その男について表題は「音の求道者」。
 トレードマークのパワーアンプLo-D HMA9500IIにD70という名の自作スピーカー。
 もうお分かりだろう,2000年に亡くなった自作スピーカーの神,長岡鉄男である。

 そこで記事の大半を割いて話題となっていたのがスワンだった。
 もちろん今回作製したスワン105ではなく,その当時のユニットFE- 106Σ(シグマ)によるオリジナルスワンである。
 立花氏の感想が,「椅子から転げ落ちるほどびっくりした。」,「市販スピーカーの20万円クラスならスワンとどちらがよいかわからない。ダイナミックレンジは互角。定位はスワンのほうが圧倒的によい。」ときた。冷静なジャーナリストをここまで興奮させるスピーカーである。
 そして本人の解説は,「10cmという小口径ユニットにより,点音源に近づくとともに,軽く小さい振動板は微小信号にもすばやく反応するのでダイナミックレンジは大きくなる。小口径ユニットが苦手な低音はバックロードで出してやれば良い。また,そこから出る低音はコンマ8ミリセコンド遅れて出るので,音場感が出る。(一部略)」とある。
 「もうこれは作るしかない。」と思ったが,そこは自由になるお金も部屋のスペースも無い悲しさ,記事を読み返すしかなかった。

 3年前にふとしたきっかけでスピーカーを新調し,その音の素晴らしさとスピーカーの大切さを身をもって体験すると,忘れかけていた長岡スピーカーが頭の中に蘇ってきた。
 購入したスピーカーはVictorのSX−V1X。その素晴らしさについては以前「今月のおすすめ」で紹介したとおりだ。
 しかし,そこには書かなかったものの,一つ気になる部分があった。
 サイズの制約をカバーするためであろう低音への味付けが,ほんの少しではあるが人工的であり,気になってしまったのだ。
 美味しい料理を食べたとき,人はその素材のみを味わっているわけではない。店の味を意識するとしないとにかかわらずに自然に食しているのだ。それは味であったり,雰囲気であったりする。
 スピーカーにも同じことが言える。Victorは開発者の意図が明確であるがゆえにその音にも色濃く現れているのではないだろうか。
 私にはそれが気になってしまったのだった。誤解されぬように書き足すが,その音質は余計なものという感じは微塵も感じさせない。音楽の中低音部分に雰囲気という味をさりげなく付け足してくれるのである。
 クラシックで大オーケストラの全奏を聴くとき,深々とした奥行きを感じさせる雰囲気をうまく出してくるのだ。
 もう少しシンプルな構成を持つ編成で収録された音を聴くとき,そこに必ずこのスピーカーの持つ味が現れてくる。
 好みの別れるところだが,それを不自然と感じる人には合わないものだろう。

 そして,長岡スピーカーである。
 多くの製作者たちが異口同音に口にするのは,その音の純度の高さ,スピード感,音場の広さである。
 SX-V1Xでその点に関して不満を感じたことはないが,多くのファンを獲得したスピーカーにはそれなりの魅力が備わっているはずだ。
 スワンはユニットの進化に伴い,MkII,a,Sと進化してきたが,長岡氏の没後,ユニットは今回使用したFE-108ESIIに進化したが,エンクロージャーは氏の死によってこれ以上の発展は望めなくなったように思えた。
 しかし,氏に代わってエンクロージャーを進化させるものが登場した。炭山アキラ氏である。
 ユニットは進化し続けるだけとは限らない。その口径に見合わないハイ・パワーと音質を手に入れた代わりに,周波数特性に欠陥とも思える部分が発生してしまったのだ。
 1KHz付近に明らかなディップがあるのだが,聴感上はあまり感じないというが,やはり気持ちのいいものではない。
 炭山氏の発表したスワン105は,オリジナルに比べ容積が5%UPしたほか(正確には5%のアップではないが),ヘッドが大幅に大きくなった。
 このことにより,ユニットのパワーを生かし,かつ,ユニットの欠点も克服したようである。ようであるとは,今までのスワンを聴いていないからだが,数多く作製している先人たちの間では認められているようだった。
 
 完成されたスーパー・スワンを聴いたことが無いが,進化し続ける傑作を知って,作製せずにはいられなくなった。
 この後紆余曲折(詳しくは,後程Up予定の製作記にて。)を経て完成したのが先月下旬。
 エージングを兼ねて鳴らしながら音の変遷を楽しんでいるが,一聴してわかったことは,バックローデッドホーン特有の癖であった。

1.中低音域に,明らかなピークがある
2.なんとなく音が飛んでこないように感じる録音がある。

1は,結構気になった。バックロードがかかって出てくる音にピークが在るようなのだ。f特を撮っているわけではないので,言葉で表現するしかないが,ギターなどの胴を叩いた時に出る音に似ている。これが箱鳴りというものだろうか?音を大きくすると,オーケストラなどのティンパニのロールなどで「うぉ〜ん」という風に唸って聴こえてくる。
 某所の掲示板で相談したところ,指示されたデッドスペースへの粒状鉛挿入による重量付加を行っていないためとの指摘を受け,早速田代合金所より20kgの粒状鉛を購入し詰めたところ,うなりは収まった。

2は,エージング不足か,もしくは巷でいわれるこのユニット特有の中抜け現象なのか?
 2月下旬現在,あまり変化は無いが,よく考えれば人工的な音の付加の無い10cm一発のフルレンジである。録音の正常が素直に出てきたと考えるべきだと気がついた。
 何を聴いてもそつなく聴かせることは,ある面ではいいのだろうが,味の素をかけた料理のように,画一的かつ人工的で,音や音盤をとことん楽しみたい,比較したいといった向きには物足りないのではないだろうか?
 また,作製した後に様々な工夫や改良を加えて好みの音に近付いていくことにこそその楽しみがあるのであって,まったく欠点の見当たらない製品など自作でもなんでもないのである。

 先に記になった部分を書いてしまったので,ここまで読んでこられた方々は私がこのスピーカーに対して否定的なのではとお思いになった方もいらっしゃるだろうが,そうではない。
 今まで聴いたことの無い新たな音の世界に,1日中今までの自分のお気に入りの録音を引っ張り出してきての大試聴時間と相成った。

では,ここでその音盤たちを紹介しよう。
スピーカーを作製し始める前から,1枚目はこれと決めていた。

1.サン・サーンス
交響曲第3番 「オルガン付き」
デュトワ モントリオール交響楽団 DECCA 417−553−2
 (第2楽章 後半冒頭)

パイプオルガンが浪々と鳴り響く壮麗な音楽。スケールやオーケストラの響きはどうか?

2.久石 譲
 Piano Stories (IXIA N32C−701)
 トラック5 The Windo Forest

 久石譲の映画音楽を自信の編曲,演奏で収録したアルバム。この曲は「となりのトトロ」のメインテーマで,序奏後のffで奏される低音部分のピアノの鳴り,演奏ノイズ(鍵盤を指が触れる,たたく)が再現されるか。


3.パニアグワ
  la Spagna(BIS CD-163)
 31曲目 Furioso alla Spagnoula

 バロック以前の作曲家たちの有名なメロディーを何百種という古楽器でとっかえひっかえ演奏している楽しいアルバム。
 BISの鮮烈な録音もイケている。31曲目は冒頭に花火が弾けるような打楽器の一撃が忠実に再現されるか。

4.宇多田ヒカル
First Love より First Love

冒頭のギターから始まる音楽の静謐さからボーカルの美しさをどのように表現するのか。

5.木村 大
THE CADENZA 17

ギターの音と空気感が表現できているか。

6.ヨー・ヨー・マ
コダーイ:無伴奏チェロ・ソナタ 作品8

チェロの持つ幅広い周波数の倍音が空気感と相俟って忠実に再現されるか。アタック音の立ち上がりは。

 この話,続きます。20030227


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